2012年06月05日

ドリーム

山の夢を見ていた。

寒い雪の中で、テントに閉じ込められている。

寝袋(シュラフ)の中で、吹雪の音を聴いている。
テントにぶつかってくる風と、小石のような雪の音。

そこで、手紙を読もうとしている。

瀬川加代子からの手紙だ。

その手紙を、自分は持っているはずであった。
それが、見つからないのだ。
ポケットや、ザックの中に手を突っ込んで捜しても、見つからない。

もらって、自分はそれを読んだはずであった。

しかし、内容を思い出せない。
思い出せないから、もう一度、それを読もうと思ったのだ。
いやしかし、もしかしたら、自分は、その手紙をもらってないのかもしれない。
読んだ気になっているだけで、そんな手紙はもらってない。
だから内容を思い出せないのだ。

落ち着いたら、手紙を書くと言っていたその手紙だ。

ああ、待てよ、そんな手紙だったら、何が書いてあったか、必ず覚えているはずじゃないか。
それを覚えてないのだから、やはりもらってなんかいないのだ。
だが、どうして、その手紙をもらったと思い込んでしまったのか。

よくわからない。

本格的に、寝袋から足を出して、テントの中を捜せばいいのだが、寒いから、寝袋の中から手だけ伸ばして、手紙を捜している。
こんなやり方じゃ、見つかるわけはない。

ああー

それにしても、寒い。

テントの内側が、ばりばりに凍りついている。

何か温かいものでもあればいいのに。

女の肉体、あれはいったい、どんな温度だったかな。

それが、どうにもよく思い出せない。

自分の身体の温度と、理屈の上では同じはずなのだが、あれは、かなり温かいものだったような気がする。

しかし、何を考えていても寒い。

          (夢枕 獏 ”神々の山嶺”より引用)

● Posted by saeki | 2012年06月05日 12:11 | さいきんぐ
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